ボールベアリングで支えることができる荷重の限界

荷重の限界ってどういうこと?

物体が負荷できる荷重以上に荷重が加わると、物体が変形したり破壊されるのは皆さんも経験上、感覚で想像がつくと思います。
例えば冷ややっこにネギを乗せても崩れませんが、指で押せば豆腐は崩れます。
ガラスのコップに水を入れても壊れませんが、人が踏めば割れてしまいます。
負荷できる荷重の大小はありますが、鉄を使ったベアリングでも同じことがおきます。

ベアリングは荷重を支えながら回転することができる特徴を持つ部品ですが、回転していない時にも荷重を支えなければならない運命を持ちます。
少し難しい話になりますが、ベアリングの世界では “回転している時”と“回転していない時”で荷重に対する考え方を分けて限界値を定義します。

 “回転している時” = 動的状態 ⇒「基本動定格荷重」
 “回転していない時”= 静的状態 ⇒「基本静定格荷重」

上記のように定義され、それぞれ根拠となる理論から限界値が導かれています。
今回のコラムではボールベアリングの「基本静定格荷重」について解説をします。
(ボールベアリングの「基本動定格荷重」については、別コラムで解説をします)

ボールベアリングはどうやって荷重を支えている?

ボールベアリングの内部構造は、これまでのコラムでもお話した通り内輪、外輪、転動体(鋼球)、保持器によって構成され、荷重は内輪の軌道面と鋼球、外輪の軌道面で接触し、その間で支えることになります。

簡単な形で考えるために内外輪の軌道面を平面だと捉え、平面と球の接触を考えてみると荷重が限りなく0に近い場合、平面と球は“点”で接触します。
ここに荷重を加えると、この点で荷重を支えることになりますが、幾何学的な考え方では“点”には面積が無いため、この点に荷重が加わって発生する圧力は無限大になります。
無限大の圧力が加われば、いかなる物質でも破壊されますので、実際には平面や球が凹んで円形の接触“面”として荷重を支えることになります。

材料力学を学んだ方は「弾性変形」「塑性変形」という言葉を聞いたことがあると思います。
「弾性変形」とは、荷重を取り除くと元の形に戻る変形のことを言います。
わかりやすい例として、バネを伸ばして、手を放すと元の形に戻るような変形のことです。
しかしバネを必要以上に伸ばしすぎると、元の形には戻りきらず、だらしなく伸びた状態になります。
このように荷重を加えたことで、荷重を取り除いても元の形に戻らない変形を「塑性変形」と言います。

話を戻しますが、平面と球の凹みが「弾性変形」の範囲内であれば、荷重が取り除かれれば元の形に戻りますが、「塑性変形」の範囲に入ってしまうと、圧痕となって凹みが残ることになります。
ボールベアリングは「弾性変形」の領域で使用されないと、ベアリングの機能が損なわれてしまいます。

接触の理論

前項でお話しした2物体の接触については、ドイツの物理学者ハインリヒ・ヘルツが接触部分に加わる圧力(応力)を理論的に解析して、接触応力の数式を導いており、この理論がボールベアリング内部の接触の計算に用いられています。

ヘルツの接触応力の説明を行うと、非常に長くなりますのでここでは割愛しますが、先ほど説明した平面と球との接触が円形の接触面であったのに対し、実際のボールベアリングでは曲率を持った軌道溝と球の接触となり、その接触面は楕円形の面となります。

荷重を加えた場合、その接触楕円に発生する圧力がベアリング鋼の「弾性変形」の範囲になるのか、「塑性変形」の範囲になるのかを定義したものが「基本静定格荷重」となります。
※厳密には塑性変形は発生するのですが、その塑性変形の度合いがベアリング機能に影響を及ぼさない限界値のことを「基本静定格荷重」と定義されています。

基本静定格荷重とは

軌道と転動体の変形量の和が、転動体直径の1/10000になるときの軸受荷重を「基本静定格荷重」といい、ボールベアリングの場合、接触応力が4.2GPaとなるときの荷重が「基本静定格荷重」となります。

「基本静定格荷重」の考え方は、1958年に初めてISO規格として定義され、その後改正されて現在に至ります。

ISO規格に対応する規格として、日本ではJIS B 1519として規格化され、その中で先ほどの4.2GPaが定義されています。
ラジアルボールベアリングの「基本静定格荷重」は以下の式によって導かれます。

<基本静(ラジアル)定格荷重>(C0r
C0r=f0iZDw2cosα

Dw:玉の直径
i:転動体の列数
Z:1列当たりの転動体の数
α:呼び接触角
f0:JIS B 1519により与えられる係数

なお、この式は内輪の溝半径が0.52Dw、外輪の溝半径が0.53Dwを超えない場合にのみ適用されます。

材料の硬さによる補正

「基本静定格荷重」について解説しましたが、前項で解説した通り変形の限界から定めた値であり、材料はベアリング鋼が前提となっていることは前置きした通りです。

材料が変わればこの限界値が変わってしまうことも容易に想像できるかと思います。

JIS B 1519にも「JIS G 4805(高炭素クロム軸受鋼鋼材)に規定されている鋼材を最適な硬度に焼入れし製造した軸受に適用する。」と規定されています。
異なる材料を用いたり、熱処理の違いなどにより想定されている硬さより低くなれば、静定格荷重も低くなります。

硬さと静定格荷重の相関については、明確に規定されたものは存在せず、ベアリングメーカー毎で若干考え方は異なるようですが、硬さにより係数を乗じて静定格荷重を補正します。

 

基本静定格荷重に対する安全率の考え方

「基本静定格荷重」の定義については前述しましたが、これ以上の荷重では絶対に使えないというものではありません。騒音や振動の発生、寿命の低下などベアリング性能の低下を許容した上であれば「基本静定格荷重」を超える荷重でも使用可能です。

しかしながら、「基本静定格荷重」を超える荷重で使用することは、想定外の故障が発生する可能性もありベアリングメーカーとして推奨できるものではありません。

JIS B 1519には、「基本静定格荷重」に対する安全率の指針が記載されています。
(あくまで“指針”であり、適合を保証するものではありません。)

この指針によると、ボールベアリングの場合は安全率≧1となるベアリングを選定することが望ましいとされています。

玉軸受の静安全係数S0の目安表
運転時の条件 S0(最小)
静かな(振動がなく滑らかな)回転が要求される場合 2
衝撃荷重がある場合 ⇒ 著しい衝撃荷重(※注1) 1.5
普通の使用条件の場合 1

※注1  衝撃荷重の大きさが不明確の場合、S0は1.5以上を使用して頂くことが望ましいです。

衝撃荷重の大きさが正確に分かっている場合、表よりも小さなS0を採用することができます。

基本静定格荷重とベアリング故障との関係

「基本静定格荷重」は塑性変形の度合いがベアリング機能に影響を及ぼさない限界値のことです。

この限界値を大きく超えた荷重が加わった場合は、ベアリングの機能が損なわれます。

具体的には、圧痕の発生による回転不良・騒音・振動、圧痕を起点とした剥離、割れなど致命的な損傷につながる場合もあります。

荷重というとベアリング使用状態における荷重だけを考えがちですが、ここで注意しておきたいのが、組み付けや取り扱いにおける荷重です。

当社の経験上、圧痕の多くはベアリング組み付け時に発生させてしまっていることが大半です。

製品として荷重設計がされていても、組み付け時の荷重まで考慮して設計がされていることは少なく、工具やプレス機を使って組み付けを行う際に、想像以上の荷重をベアリングにかけてしまっていることが多くあります。

また、ベアリングを軸に組み付けた状態で落下させてしまうと、大きな衝撃荷重がベアリングに加わります。
生産工程まで含めた、総合的な荷重マネジメントがベアリングを使う上でのポイントとなります。