産業機械の重要な部品であるベアリング(ころがり軸受)は、その故障が製造ラインの停止や重大な事故につながる可能性があります。ベアリングの故障の中でも特に注意が必要なのが【剥離(フレーキング)】です。本記事では、剥離の基礎知識から予防策(対応策)までを解説します。
1:剥離(フレーキング)とは
剥離とはベアリングの内外輪軌道面もしくは転動体表面がうろこ状にはがれる現象です。
ベアリングの構成部品である軌道面と転動体が転がり接触することにより繰り返し応力を受け、ベアリング材料が疲労することで生じる疲労現象です。
転がり疲れによって剥離が生じるまでの総回転数を転がり疲れ寿命と呼び、剥離が発生した時点でベアリングは寿命に達したと判断できます。
想定寿命より早期に剥離が発生した場合は、何らかの異常要因による早期剥離と判断できます。
また、剥離は発生起点の違いにより【内部起点剥離】と【表面起点剥離】の2種類に分けられます。
内部起点剥離とは…軌道面や転動体表面の接触面に非常に近い材料内部中の非金属介在物周辺からクラックが発生し、それが表面に達することで剥離が発生する、介在物起点の剥離です。
また、ベアリング鋼中に水素が侵入し、水素脆性による金属組織変化を起点とする剥離もあります。
表面起点剥離とは…潤滑油やグリース中、またはベアリング内部に侵入した異物が軌道面と転動体の間に噛み込んで生じた圧痕を起点とする剥離です。
さらに、転動体と軌道面の間の潤滑油膜の形成が不十分な場合、金属素地同士が接触することが原因となり剥離が発生します。
2:剥離が原因で起こる故障と危険性
ベアリングに剥離が発生すると、回転に伴い振動や騒音が生じ、正常に回転できなくなります。そのため、ベアリングとしての正常な機能を果たせず、寿命に達したものと判断します。また、剥離をそのまま放置すると、剥離箇所から進展し、軌道面や転動体に亀裂が発生したり、表面部分がはがれ・脱落し、初期に発生した剥離片を起点にさらに剥離が進展します。
剥離は突然に発生することが多く事前予知が難しいため、ベアリングから異常な振動もしくは騒音がする場合には、ただちに装置を停止し、ベアリングの状態を確認する必要があります。
3:早期剥離の原因と予防策
剥離は基本的に転がり疲れによる寿命によって生じますが、早期剥離にはさまざまな要因が関与します。主な原因を大別すると、ベアリングの製造時における原因と、使用・取り扱いに起因する原因があります。特殊用途を除き、一般的なベアリングでは製造時要因の対策は使用者側では難しいため、ここでは使用・取り扱いに起因する早期剥離の原因と予防策を紹介します。
【使用上、取り扱いによる早期剥離が考えられる原因】
原因 | 現象 | 対策 |
しめしろの過大 | ベアリング圧入時のしめしろが大きいことでラジアル内部すきまが負のすきまになり、想定より極端に寿命が短くなる。 | 適正なはめあいの選定、ベアリングのラジアル内部すきまの変更。 |
取付誤差 | 取付時にベアリングが大きく傾いて取り付けられるなど不適切な組付けにより、内輪または外輪に傾きが発生し、ベアリングに偏荷重(モーメント荷重)が生じる。 | 取付座などの精度を確保し、適切な方法でベアリングを取り付ける。 |
荷重 | ベアリングに対して定格荷重を超えた状態、もしくは偏荷重が加わった状態で使用する。 | 定格荷重に合った適正なベアリングを選定する。 |
温度 | 通常の熱処理が施されたベアリングの使用温度の上限は120℃程度とされている(硬度や金属組織に影響が出るため)。また、高温や低温での使用環境では潤滑剤の粘度にも影響が出る。 | ベアリングに寸法安定化処理や高温用の特殊グリース(ウレア系等)を使用するなど、用途に合った処理およびグリースを選定する。 |
異物 | 異物がベアリング内部に侵入することで軌道面もしくは転動体に噛み込み、圧痕が発生する。ベアリングにシールドやゴムシールがあっても内部への侵入可能性はある。特に液状(水など)の侵入は防ぎにくい。 | ベアリング取付箇所の外側にオイルシール等を取り付ける。 |
潤滑 | 潤滑油(グリース)の供給が不足すると軌道面と転動体の間の油膜が薄くなり、油膜切れが発生しやすくなる。また、グリースには寿命があり、寿命を迎えると潤滑機能が損なわれる。 | 潤滑油の供給量を適正にする。極圧添加剤入りグリースを使用する。グリースが寿命を迎えた場合には補給が必要であり、その際は異なる種類のグリースを混用しないよう注意する。 |
回転速度 | ベアリングの回転速度が速すぎると潤滑油やグリースの油膜形成に影響が出る。さらに、転動体の遠心力が増加し寿命に影響する。 | ベアリングには許容回転数があるため、選定時は各メーカーのカタログ記載値以下で使用する。 |
4:剥離を未然に防ぐための設計
ベアリングは使い続ければいずれ寿命を迎え、剥離が発生します。剥離による故障は、上記で紹介した使用・取り扱い上の要因による早期剥離のみ予防できます。製造元に起因する早期剥離の対策は、ベアリングの製造技術の向上や特殊工程の実施が必要となり難易度が高いため、使用者側でまずはベアリングの選定、使用上の注意、機械全体の設計の見直しが重要になります。ベアリングで早期剥離が発生した場合は、上記の【ベアリングの選定・使用上の問題で早期剥離が考えられる原因】を参考に見直しを行う必要があります。
5:サンヒルであった早期剥離の事例
- ギヤボックス内に取り付けられていたベアリング付近にギヤがあり、その歯面が摩耗することで摩耗粉が発生し、ベアリング内部に侵入。転動体と軌道面の間に侵入した摩耗粉が噛み込んだことにより、早期剥離に至った。
- コンベアローラーに取り付けたベアリングに過荷重および偏荷重が加わっていたことにより軌道面に剥離が発生した。その後剥離が進展して最終的にベアリングの内輪割れに至った。
- コンベアローラーに取り付けられたベアリングにモーメント荷重が加わっていた。それにより転動体が軌道面を蛇行し、転動体と軌道面との間ですべり摩擦が発生し、早期剥離に至った。
- 運転時の熱負荷が高かったことによりグリースの潤滑機能が低下し、早期剥離に至った。さらに、剥離が原因で転動体の回転バランスが崩れ、保持器に引張・圧縮の繰り返し荷重が加わり保持器が破損した。
6:ベアリングのことならサンヒルにお任せください
サンヒルでは日本国内での設計と海外工場での生産により、日本メーカー基準の品質と優れたコストパフォーマンスを両立したベアリングをご提供します。海外工場への日本の品質指導により、高品質かつ低コストの製品供給を実現しています。さらに、お客様のニーズに合わせた柔軟な技術サポートも万全です。特殊仕様のベアリング開発やコストダウンのご相談など、設計段階から丁寧に対応し、開発からアフターサービスまで一貫してサポートします。
「ベアリングのことならサンヒルにお任せください」。品質・コスト・サポートのすべてでお客様の期待にお応えします。ベアリング選定や寿命延長に関するお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。