1.ベアリングの固定方法の重要性
ベアリングは単体で使用されることはなく、機械部品に取り付けられて使用される部品です。取り付けの際には、ラジアル方向とアキシアル方向、そして円周方向の3方向に固定する必要があります。
ベアリングを固定する方法は様々あり、使用条件(荷重、回転速度等)や雰囲気温度等の外部環境によって使い分ける必要があります。誤った固定方法を選択してしまうと、ベアリングの故障や取り付けた機械全体の故障につながるため、そういった問題を回避するために適切な固定方法を選定することが重要です。
2.ベアリングを固定するために必要な知識
固定方法を知る前に、ベアリングを固定するための事前知識が必要です。この知識を基に、ベアリングの固定方法や必要な要素を理解し、荷重や回転数などの条件に応じた正しいベアリングを選定する必要があります。
2-1.ベアリングの正しい選定
ベアリングには様々な種類があり、使用環境(雰囲気温度等)や使用条件(荷重、回転速度等)に応じて適切なベアリングを選定することが重要です。 ベアリングの選定については下記のコラムをご参照ください。
コラム:ベアリングの種類と選び方
https://bearing.sunhill.co.jp/2023-11-20/
2-2.はめあいの選定
ベアリングを固定する際にははめあいの検討が必要となります。はめあいとは、ベアリングの内輪と軸、もしくはベアリングの外輪とハウジングの寸法上の組合せのことです。
「はめあい」には下記の種類があります
種類 | 詳細 |
すきまばめ | 軸径よりも穴径が大きく、穴と軸の間にすきまがある状態 |
しまりばめ | 軸径よりも穴径が小さく、常に穴と軸にしめしろ(※)がある状態 |
中間ばめ | 軸と穴をはめ合わせた際、穴と軸との間にすきままたはしめしろのいずれかができる状態 |
※しめしろとは、はめ合わさる前の穴径と軸径との差のことです。 ベアリングの使用目的に応じて、適切なはめあいを選定することが重要です。
2-3.固定後の確認方法
ベアリングの取り付け後、取り付け不良がないか外観確認と回転確認を行います。 外観確認では、取り付け時の傷の有無、ミスアライメントや傾き、取り付け状態の異常の有無を確認します。 回転確認では、回転感触の違和感(異音、異常な振動等)や回転の重さを確認します。 また、取り付け後、時間の経過とともに不具合が発生する可能性もあります。 例えば、取り付け時の与圧による応力割れや、軸受内部への異物混入による回転不良(回転ロック、回転のごつごつ感等)などが挙げられます。そのため、稼働開始後も定期的なメンテナンスが必要となります。
固定側、自由側
軸を支持するためには、2個のベアリングを一定の距離を置いて配置するのが代表的な方法です。 ベアリングは固定側(※1)と自由側(※2)を設定する必要があります。これは、2個のベアリングを軸方向に固定すると、温度変化によって軸とハウジングの線膨張係数に差が生じ、外輪側と内輪側で軸方向の位置がずれるためです。片側を自由側にすることで、線膨張係数の差による外輪と内輪の位置ずれを吸収することができます。
※1 固定側:ベアリングの軸方向の移動を固定する側。
ラジアル荷重とアキシアル荷重の両方を支持できるベアリングを選定する。
※2 自由側:ベアリングの軸方向の移動を可能にする側。
外輪と内輪を分離できるもの、もしくは外輪側をすきまばめにする。
3.固定方法の紹介
固定方法は、大きく分けて機械的固定、摩擦・材料特性を利用した固定、ケミカルを使用した固定の3種類があります。
3-1.機械的固定方法
種類 | 詳細 |
加締め | ベアリングを軸またはハウジングに挿入し、ベアリングの入口箇所を加締める方法です。 強い抜け強度が必要な場合に使用します。
メリット:加締めによりアキシアル荷重に強い |
止め輪 | ハウジング内径または軸外径に溝加工を行い、軸受を挿入後、溝部に止め輪を取り付けてベアリング端面を押さえる方法です。高精度の位置出しが不要で、メンテナンスが必要な箇所に使用します。
メリット デメリット |
ナット、ボルト | ベアリング端面をナット(ボルト)で固定します。ナット・ボルトの着脱でベアリングの交換が可能なため、メンテナンス性と作業性に優れています。
メリット:着脱が容易で、アキシアル方向の力に強い 注意点:締め付けによる歪みや応力割れ、座面の精度管理が必要(座面の精度が悪いと傾いて取り付く可能性がある) |
3-2.摩擦・材料特性を利用した固定方法
種類 | 詳細 |
圧入 | ベアリングを軸やハウジングにしめしろを持たせて取り付ける方法です。部品点数を削減でき、高精度の位置出しが可能です。
メリット:締結力以上のアキシアル荷重が加わらないと軸方向に移動しないため、高精度の位置出しが可能で、部品点数も削減できる デメリット:はめあい応力、しめしろの計算、ベアリングのすきまの選定が必要で、取り外しが困難 |
焼きばめ(冷やしばめ) | 圧入の一種で、ベアリングをベアリングヒーター等で加熱(冷却)し、線膨張係数差を利用してベアリングをハウジングまたは軸に挿入し固定する方法です。 メリット ・ベアリングと軸やハウジング間にすきまがあるため、挿入が容易 ・締結力が非常に強い ・高精度の位置出しが可能 デメリット 注意点:ベアリングの加熱温度は仕様により異なるため、ベアリングメーカーに確認が必要。また、挿入には経験が必要。 |
Oリング | ハウジング内径、軸外径にOリングをはめ込むための溝加工を行い、溝部にOリングをはめ込みます。Oリングの摩擦係数を利用して固定する方法です。 メリット:すきまばめを使用した場合、クリープ防止効果が高く、組み付けが簡単 デメリット:高温環境では使用できない ※Oリング付きベアリングも市販されています |
3-4.ケミカルを使用した固定方法
種類 | 詳細 |
接着剤 | 固定したい側(内径、外径)に接着剤を塗布して固定します。
メリット:作業性が良く、低コスト 注意点:接着剤がベアリング内部に入ると故障の原因となる |
4.ベアリングの固定・取り扱い時の注意点
1.しめしろの管理
ベアリングは圧入時に多少変形します。しめしろが大きすぎると、はめあい応力が高くなり応力割れのリスクが生じます。また、ベアリングの内輪や外輪が大きく変形し、ラジアル内部すきまが減少して負になると、スムーズな回転ができなくなります。そのため、適正なしめしろで組み付けることが重要です。
2.ハウジング・軸側の隅R
ベアリングの内外径の角部には面取りが施されています。ハウジングや軸側の隅Rが大きいと、ベアリングの面取り部が隅R部分に接触し、奥まで挿入できず、目標の取り付け位置に設置できなくなります。ベアリングの面取りサイズはJISで定められているため、使用するベアリングに応じてハウジングと軸側の隅Rを決定する必要があります。
3.衝撃を与えない
ハンマーでの打撃や落下により、ベアリングに割れや歪みが生じたり、軸受内部の軌道面に鋼球が衝突して圧痕が発生し、破損や性能低下につながります。
4.清潔な環境での取り扱い
ベアリング内部に異物(ゴミ、埃等)が侵入するとスムーズな回転ができなくなります。特にオープンタイプは内部への異物侵入を防げないため、取り扱いに注意が必要です。
5.圧入時の注意点
挿入場所と反対側を押して圧入すると、軌道面に圧痕が発生し、スムーズな回転ができなくなります。
5.ベアリングのことはサンヒルにお任せください
今回紹介させていただいた固定方法でも、間違った方法で固定したり、使用用途に合っていない固定方法を選択してしまうとベアリングや機械全体の故障の原因となります。
サンヒルでは、ベアリング単体の提供だけでなく、ベアリングを組み込んだ複合製品の一貫生産も得意としております。
お客様のニーズに合わせたカスタマイズやアドバイスも行っていますので、お気軽にご相談ください。